岡行政書士事務所では、生活困窮者支援を業務の柱の一つにしている。
岡行政書士事務所のホームページ(https://seikatsu-shien.com/)を見て、全国から毎日相談が寄せられる。相談は365日、一日もゼロの日は無く、件数は月200件〜300件を数える。
このサイトは大変好評で、これまで表示回数は416万、クリック数は10.5万となっている。サイトを見ている人の構成は男性56.8%、女性43.16%、年齢は45歳〜54歳が29.32%と一番多く、35歳〜44歳が22.23%、55歳〜64歳が20%となっている。最近1ヶ月では若干年齢構成は高齢化してきているようだ。
「最後の望み」ネット喫茶から相談
最近圧倒的に多いのは、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、「派遣切りになった」「雇い止めになった」という人からの相談だ。職と住居を同時に失って、「ネットカフェ難民」となり、「手持数百円。ネット喫茶に泊まれるのも今日が最後」という人から「最後の望み」と、メールや電話で相談が寄せられる。携帯は切れ、Wi-Fi環境のあるところからでないと連絡がとれない人も多い。だから「ネット喫茶にいることのできる今がラストチャンス」と差し迫った相談が多いのだ。
生活保護の申請は全国どこからでも受けることはできるが、家も同時に確保するとなると、初期費用ゼロ、保証人不要、申請から保護費が支給されるまで食事も提供してくれるという「好条件」のマンションは大阪市内にしか確保できていないので、こちらで高速バスを予約して、大阪まで呼び寄せ、住居を確保して、代理人として生活保護申請を行う。専門家が代理人として申請するので、却下されたことはほとんど無い。
こうして「明日はホームレスか」という人が、こちらの支援で個室の住居が確保され、保護費が支給され、「これで一安心。これから自立に向けて頑張ろう。本当にお世話になりました。」と感謝され、私も住居を提供してくれた家主さんも「やり甲斐」を感じることになるのだが、実は大きな「落とし穴」がある。
なぜ突然消えるのか?
それはこうして支援した人の2割〜3割が突然消えてしまうということだ。この2割〜3割という比率は、元ホームレス状態の生活保護受給者を受け入れたところでは判で押したように同じ比率なので、決して支援者側に原因があるわけでは無い。
携帯で呼び出しても出ない。着信拒否にしている。部屋を覗くと鍵を置いて「もぬけの殻」という現象が必ず2割〜3割の確率で起こるのだ。
折角安定した住居が確保され、生活保護も受けることができたのにどうして突然消えるのか、不思議で仕方が無かった。
最近、消えた人物にお金を貸していた人からの依頼で返還請求を行う為に戸籍附票を取り寄せた。ここにはいままでの住所の変遷が全て書かれている。それを見ると、45歳にしてこれまで住所は12回も変わっており、現在はどうもどこかの派遣会社の借り上げたアパートに住んでいるようだ。私が代理人なので、区役所に申請後の進捗状態を問い合わせると、本人の申出により「業務委任契約は不当に締結されたもので無効」との本人からの申出があったので「個人情報は開示できない」という返答だった。
想像するに、彼は保護申請後もスマホで仕事と住居が提供される派遣会社を探していたのだろう。そして「幸運」にも直ぐに見つかったので、そちらに向かったのだろう。しかし、私や家主さんの世話になりながら出て行くのも「ばつが悪い」。借りたお金を返すこともできない。契約では2年以内の解約は2か月分の家賃を違約金として払うことになっているが、払える訳がない。「最適」な選択が「黙って突然消える」ことだったのだろう。「業務委任契約は不当に締結されたもので無効」という本人の申し出も後を追われない為に考えたのだろう。
現代の奴隷工場「負のループ」くり返す
しかしその派遣会社を辞めることになる日も遠くないだろう。実は「派遣切りになった」「雇い止めになった」という人よりも、派遣労働に耐えられなくなって自分から辞めて来たという人の方が多いのだ。これを「我慢の出来ないダメな奴」と決めつけることは出来ない。聞くと、労働者を人間では無く、「いつでも交換可能な機械の部品」としか見ない派遣労働の現場の人権侵害、パワハラ等々の実態は「奴隷工場」そのものだ。こういう環境に晒されている非正規労働者が、国の統計でも派遣社員136万人、契約社員294万人など2千万人もいるのだ。最近ではこうした統計には出てこない「請負労働者」も多い。
相談者の中には、派遣⇒解雇・退職⇒ネット喫茶⇒生活保護⇒派遣という「負のループ」を延々と繰り返して来たものも多い。
「福祉はコスト」から「福祉は投資」へ
これは国や自治体の対応にも大きな問題がある。稼働年齢の受給者に対する求職活動の指導では、手っ取り早く一日も早く「自立」することを強制する。彼らが正社員として働く機会はほとんど無く、就労を焦ると又々派遣、日雇いで働くということになる。そして又「負のループ」に陥ることになるのだ。生活保護を良い機会にして、しっかりと教育を行い、技能を身につけ、資格を取得し、一生働くことのできる仕事と誇りのもてる人生、本当の「自立」を援助することが、本人の幸せの為であり、結果として社会全体の利益になるのではないだろうか。「福祉」を「社会のコスト」と考え、いかに「節約」するかというやり方を「福祉は将来への最高の投資」という考えに大きく転換することが必要だ。
岡行政書士事務所でも、生活保護「受給まで」だけでは無く、「受給後」の支援にも力を入れて行きたいと考えている。
(『月刊 風まかせ』投稿原稿)