衆議院予算委員会での立憲民主党・稲富修二氏の質疑、参議院予算委員会における共産党・小池晃議員の質疑等で、菅義偉首相や田村厚労大臣からは、いわゆる生活保護申請時における「扶養照会」について、「より弾力的に運用」「扶養照会は義務ではない」等の答弁が引き出されていました。
今回、こうした国会や世論の高まりの中で、厚労省も「実施要領」を改正し、「扶養義務履行が期待できない者」の限定化や「扶養照会」が「保護の要件ではない」ことの確認など、一定の前進が図られました。これは現場でも使える通達ですので、大いに活用したいものです。
1. 扶養義務者の扶養は保護決定の「要件」ではない
今回、「扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものでは ない」ことが確認され、「『扶養義務の履行が期待できない』と判断される扶養義務者には、基本的には扶養義務者への直接の照会(以下、「扶養照会」という。)を行わない取扱いとしている。」ことが再度確認されました。
実際にはこの部分は空洞化され、「期待できても、できなくても、基本的に扶養義務者全員に扶養照会」が行われ、生活保護を申請していることが親兄弟に分かってしまう為に、申請をためらうという事例が数多くあったので、大きな前進です。
2. 扶養義務履行が期待できない者の判断基準
今回、扶養義務履行が期待できない者の判断基準として、次の3つの類型がシマされました。
① 被保護者、社会福祉施設入所者、長期入院患者、主たる生計維持者ではない非稼働者(いわゆる専業主婦・主夫等)未成年者、 概ね 70 歳以上の高齢者など。
② 要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない (例えば、当該扶養義務者に借金を重ねている、当該扶養義務者と相続 をめぐり対立している等の事情がある、縁が切られているなどの著しい関係不良の場合等が想定される。なお、当該扶養義務者と一定期間(例え ば 10 年程度)音信不通であるなど交流が断絶していると判断される場合は、著しい関係不良とみなしてよい。)
③ 当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自 立を阻害することになると認められる者(夫の暴力から逃れてきた母子、 虐待等の経緯がある者等)
又、この3つの類型に「直接当てはまらない場合においても、これらの例示と同等のものと判断できる場合は、「扶養義務履行が期待できない者」に該当するものとして取り扱ってよいことはいうまでもない」と述べていることも重要です。
今まで、例示は「20年間音信不通である」ことだけでした。今回の改正の趣旨は、音信不通だけでなく、「著しい関係不良の場合等に該当するかどうかについて個別の事情を検討の上、扶養義務履行が期待できない者に該当するものと判断してよいという趣旨である」と明確に述べられています。
さらに「10年程度音信不通である場合は、その他の個別事情の有無を問わず、交流断絶と判断してよいこと。また、音信不通となっている正確な期間が判明しない場合であっても、これに相当する期間音信不通であるとの申出があり、その申出の内容が否定される明確な根拠がないことをもって、該当するものと判断して差し支えない」と述べていることも重要です。つまり、申出が明らかに矛盾する場合を除いて、あくまで申請者の「自主申告」を基本に判断されるべきことなのです。
先に述べたように、いくら苦しくても生活保護だけは受けたくない理由の大きな一つが「扶養照会」で生活保護の申請が「親戚に分かる」ということでした。今回の通達を使って、事実上扶養照会」なんてものを無くしてしまうことが必要と思います。